村上春樹『1Q84』と中央線と西荻窪

個人的に好きか嫌いかは別として、村上春樹の『1Q84
(あと2冊は続編が出るんだろうな)を読んでいて、
なじみ深い西荻窪の情景がふっと浮かんだ。
それは、村上作品には珍しく中央線沿線が舞台として
設定されていることとも無関係ではない。
(高円寺をはじめとして、三鷹荻窪も立川も固有名詞と
して出てくるのには驚いた)。

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1


この作品に登場する宗教団体「さきがけ」のモチーフ
オウム真理教をモデルとしているけだけど、
かつて西荻窪にはオウムの事務所があった。
駅前では、オウムが選挙演説をしていたことも覚えている。
そして、西荻には「さきがけ」の前身とされる
農業コミューンを思わせる場所だってある。
今は自然食品店としてすっかり街の人たちから愛されている
「長本兄弟商店」(通称ナモさん)。
2階にはバルタザールという自然食レストランがあり、
さらに3階には仏教関連などの本を多く取り扱う書店がある。


ここのご主人・長本さんは確か若かりし頃、コミューン
を作っていたと聞いたことがある。
今でこそ自然食ブームの流れにのって、健康に関心の
ある普通の人たちもやってくるような空間だけれど、
私が小さい頃なんて、ヒッピーを越えて宗教色
を感じて苦手だった。


それだけでなくて、最近、急増中なのが整体。
とにかくどこを見渡してもニョキニョキと増殖している。
オシャレカフェと古本屋を目当てにやってくる人には
目に入らないかもしれないけれど、よくもまあ商売が
成り立つなあというほどに整体が多いのだ。
そして整体って、やはり何かしら信仰に近いところがある。
治るかどうかは信じるかどうかしだいなところがあるし、
どれだけの腕の人がやっているのかよくわからない。


そう思うと、西荻っていう街の空間には何かしら不思議な、
宗教と連続性を持つ磁場のようなものが今もある気がする。
表面はオシャレ(最近、若いカップルの多いこと!)でも、
よく目をこらしてみると、「ヨガ」「自然食」「整体」
「コミューン」「チベット仏教」というキーワードが
街の中に浮かぶ。それぞれが自然なかたちで溶け込んで
いるから、どれも違和感なく中央線カルチャーの文脈で
読めてしまうのだけど。


1984」と「1Q84」という2つの世界は、西荻の表の顔
と裏の顔と、私の中でつながる。